MVNOからMNOへ3年ぶりに舞い戻った筆者の通信インフラレビュー!

お盆休み真っ只中の今月14日、筆者は地元のドコモショップにいました。5月頃から考えていた携帯電話サービスの変更のためです。筆者が携帯電話サービスのメイン回線を仮想移動体通信事業者(MVNO)サービスへ移行したのは2016年10月です。

当時も乗り換えの方法や使用感などを紹介しており、それまでau回線を利用していましたが、使用データ量に対して当時の料金プランが高すぎたことや、ブームとなりつつあった格安のMVNOも試してみなければいけないと感じたことが変更のきっかけでした。

はじめはオプテージ(当時のケイ・オプティコム)が運営する「mineo」、その後、インターネットイニシアティブが運営する「IIJmio」といったMVNOの携帯電話サービスを渡り歩き、今回約3年ぶりに移動体通信事業者(MNO)であるNTTドコモへと戻ってきたことになります。

この3年間で、MVNOやMNO回線のメリットやデメリットの多くを学べたように思います。通信が生活インフラとなって久しい21世紀。私たちは何を基準に通信キャリアを選択すれば良いのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は筆者の体験談を中心に、MNOとMVNOの違いやそれぞれのメリット・デメリットなどを解説します。

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MVNOを3年使って分かったこととは……!?


■2016年、MNOは本当に高かった
2016年当時に筆者が契約していたauの料金プランやMNO各社の料金プランを見返してみると、当時の料金プランが如何に高止まりしていたのかを改めて痛感します。

当時筆者は端末代込みとは言え毎月1万円以上を支払っており、その通信費を抑えるためのMNO脱出でした。しかしMVNO回線を利用し始めるまでには、かなりの手間と勉強が必要でした。

モバイルライターとして仕事をしている筆者ですら、何をして良いのか分からず不安ばかりが先行していたのですから、一般人がMVNOへの乗り換えやその利用を躊躇する理由や心境はとてもよく理解できます。

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用心深く勉強と検討を重ねた甲斐もあり、MVNOへのMNPは無事に成功。しばらくは料金プランの安さに感動していましたが、その後予想していた「ある現象」に徐々に悩まされ始めることとなります。

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MVNOは本当に安い。そして何より料金プランがシンプルだ(画像はmineoの料金プラン)


■重要な場面で役に立たなかったMVNO回線
予想されていた「ある現象」とは、通信速度の低下です。当然、MVNO回線の利用を考える段階で真っ先に検討した内容でもあり、「ある程度の速度低下は許容できる」との判断からの乗り換えでしたが、その速度低下の状況が「少々厳しいが料金を考えればなんとか我慢できないこともない」という、なんともモヤモヤとする非常に微妙な速度だったのです。

具体的には、閑散時間帯の通信速度に関して不満が出ることはほぼありませんでした。常時下り20~30Mbps程度とあまり速くはないものの、普段使いで困るような速度でもなく、動画なども問題なく視聴できる程よい速度です。

しかし厳しかったのは朝晩の通勤通学ラッシュの時間帯と昼の12時台です。いずれの時間帯も0.5~1Mbps前後で、TwitterなどのSNSの利用ですら画像が表示されなくなるほどの厳しさでした。そして何より筆者を困らせたのは、地図アプリがほぼ使えなくなってしまうことでした。

MVNOへの移行を決めた際、「フリーライターという仕事柄、ラッシュタイムやお昼時の利用は少ないから大丈夫だろう」という目算がありました。実際その時間帯にモバイル回線を使うことはほぼなかったのですが、取材時など月に数回発生する「お昼時の移動」に際し、現地のマップ情報が手に入らなくなるという問題に直面したのです。

いくら月に数回しか利用しない時間帯とは言え、その数回に限って重要な利用ばかりであったため、「真に必要としている時に使えない」という本末転倒な状況を生んでしまったのです。

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0.5Mbpsすら下回るとTwitterの利用程度でも難しくなってくる


とは言え、完全に通信が途絶することは稀でもあり、mineoやIIJmioは回線の増強も頻繁であったことから、その後は「混雑時の回線が重くなる→1ヶ月ほどで若干改善する→1~2ヶ月後にまた重くなる」という一進一退の状況が長く続きます。

例えばGoogle Mapを利用する場合、通信速度は1Mbps程度はないと厳しいと考えて良いでしょう。混雑によって0.5Mbps前後まで速度が落ちると、マップそのものが表示されなくなるだけではなく、住所や施設名からの検索結果が表示されなくなります。通信速度の低下以上に、混雑による通信途絶が厳しさを助長します。

これが暇つぶしのSNS利用程度であれば「仕方ない、あとで見よう」と30分程度待つことも可能ですが、仕事ではそうもいきません。データ読込中の進捗インジケーターが回転するばかりの画面にイライラしながら、筆者は自分の勘と駅前の案内板だけを頼りに街を歩き回ることとなります。

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電波状態は良いはずなのに鉄道の乗り換え案内が通信エラーで使えないことも


■変われないMVNO、変わるMNO
この3年間、「料金は十分に安いが利用に耐えられないレベルまで速度が低下する時間帯が存在する通信回線」というMVNOの弱点を、どう克服すべきかと様々に検討しました。

例えば楽天モバイルの料金プラン「スーパーホーダイ」では、契約通信量を消費せずに通信制限中の速度で通信を行う「高速通信OFF」で1Mbpsの通信速度を保証していますが、このプランでも「通信が混み合う時間帯(12:00~13:00、18:00~19:00)は最大300kbps」という特記事項が存在します。

mineoも今年、楽天モバイルと同様に通信制限中の速度で通信を行う「mineoスイッチ」の速度を0.5Mbpsや1Mbpsとする増速キャンペーンを行いましたが、期間限定のテスト運用であり現在は「正式にオプションプランにするか検討中」という段階です。

最低通信速度が「耐えられないレベルまで遅くなる」ことさえ無ければMVNOは本当に安くて便利な回線ですが、その根本的な解決策は未だに存在しません。

MNOから回線を購入してユーザーへ販売するという仕組み上、購入する回線容量を増やすことはそのままコストアップに繋がり、格安という最大のメリットを潰してしまうからです。

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mineoの増速キャンペーンは大好評のうちに終了した。ぜひとも常設オプションとしてもらいたいところだ


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価格メリットが無くなってしまったら、MVNOを選ぶ人は激減するだろう


そのようなMVNOのジレンマが続く中、MNOも大変革の時代を迎えます。

これまで頑なに低価格プランを出し渋り、料金を下げない代わりに大容量のデータ通信プランを武器にしてきたMNO各社は、総務省による料金引き下げの提言や勧告、通信料金と端末代金の完全分離の法制化などを受け、次々に手頃な価格とデータ容量の料金プランを発表します。

複数年契約や家族割引、光回線とのセット割引といった付帯条件はあるものの、自分に合ったプランを見つけられれば十分に魅力のある料金でMNO品質の回線を利用できるようになったのです。

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MNOが高額・大容量データ通信戦略に胡座をかける時代は終わった


今回筆者が契約したのはNTTドコモの「ギガライト」です。データ通信容量は1GBから7GBまでの従量制の通信プランで、家族3回線分の「みんなドコモ割」を適用すると月額1,980円(税抜)から利用できます。

これまで契約していたMVNOの料金プランがデータ通信容量3GBで月額1,600円程度だったため、最低料金で比較するなら月額400円程度の差に、同じデータ通信容量であれば1,400円程度の差となります。

この1,400円の差を、高いと見るか安いと見るかの問題です。重要なのは自分にとってその金額を払うだけの価値があるかということです。筆者の場合、その差額はお昼時の東京で道に迷わないための安心料や、鉄道の乗り継ぎに遅れないための保証料だと感じました。

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すべての契約者の通信料金が安くなるわけではない。高くなる場合は現在のプランを引き続き利用するのが良いだろう


■価格競争を呼び起こすのはユーザー自身
2週間程度利用した上での結論は、NTTドコモへMNPして正解だったと感じています。

通勤通学の時間帯やお昼時でも利用に支障が出るような通信速度の低下はなく、SNSや各アプリの利用でも不便を感じることは一切ありませんでした。

むしろ新宿駅や東京駅といった、日本でも有数の混雑エリアであっても何も不便を感じることなく通信できるという環境に3年ぶりに戻ったことで、日本のMNOの通信インフラの強さを再認識したほどです。

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お盆明けの月曜日、夏休みの学生と大量の観光客とお昼休みの社会人でごった返す新宿駅南口でのNTTドコモの通信速度。日本一どころか世界一混雑しているかもしれない場所と時間でこの回線品質は、世界に誇って良い


現在のMNO各社の料金プランが十分に安いかと言われれば、割引施策を利用しなければ若干の割高感もあり、筆者であっても手放しには首を縦には振れません。

しかしMVNOの回線品質と料金が基準となるなら、現在のMNOの料金プランと品質は「納得して使うに値する価格」にはなっていると感じます。

それでもまだ高すぎると感じたり、MVNOとの1,000~2,000円程度の料金差に納得できないと考えるのなら、是非とも一度MVNOを利用してみるべきでしょう。MVNOの品質で納得できるのならそれが一番です。まずはユーザー自ら動くしかありません。

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いつでも地図を普通に見られる、ということに幸せを感じられるのもMVNOを体験したからに他ならない


そもそも、総務省がMNO各社に向けて行ってきた一連の提言や勧告、そして法制化などは、ユーザーが自らの意思で自由に通信キャリアを選択することで、市場の健全な価格競争が活性化されることを最大の目的としていたはずです。

通信料金に納得せず、価格競争という企業努力を引き出したいのであれば、私たち自らが動かなければなりません。少なくとも筆者はその信念の下に3年間動き続けてきました。この先、MVNOが安定した通信品質と低料金を両立するようなことがあれば、恐らく躊躇せずにまたMNPするでしょう。

今は通信回線を「選ぶ時代」です。選ばなかった人が損をする時代と言い換えても良いでしょう。みなさん、損をしないためにも動きましょう。そのために必要な情報を筆者はこれからも集め続け、みなさんへお伝えし続けたいと思います。

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大切なのは通信料金と通信環境のバランスだ




記事執筆:秋吉 健


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